問題講評【生物】

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1.総評

【2015年度センター試験の特徴】 

進化と系統、および遺伝子に関する問題が多く出題された。難易は難しい

生物の全範囲から幅広く問われた。選択問題として、生物基礎の範囲を含む分野融合問題が出題された。進化と系統、遺伝子に関する問題が複数の大問で出題された。複数のデータの検証が必要な実験考察問題など、解答に時間を要する問題が多かった。

2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数は7。第1問〜第5問が必答で、第6問・第7問から1問選択。解答数は31〜32個(選択する問題によって異なる)。
【出題形式】 第1問〜第5問はすべてA、Bの2中問形式で問われた。文章選択問題・組合せ問題を中心に出題された。組合せ問題で「過不足なく含むもの」を選ぶ問題が2設問出題された。
【出題分野】 生物の全範囲から幅広く出題された。第6問・第7問は分野融合問題で、生物基礎の内容も扱われた。
【問題量】 28〜29ページ(選択する問題によって異なる)。
【難易】 難しい。

3.大問構成

第1問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
生命現象と物質 18点 やや難 A タンパク質、光合成
B 遺伝情報の発現
第2問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
生殖と発生 18点 やや難 A 動物と植物の配偶子形成
B 動物の発生
第3問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
生物の環境応答 18点 標準 A 骨格筋の構造
B 植物ホルモン(オーキシン、ジベレリン)
第4問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
生態と環境 18点 標準 A 個体の成長と個体群、生存曲線、生命表
B 生物間の相互作用、共進化
第5問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
生物の進化と系統 18点 A 地質時代と生物の変遷
B 自然選択、動物の系統樹
第6問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
臓器移植 10点 やや難 免疫、遺伝子、iPS細胞
第7問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
DNAの塩基配列を用いた生物の系統推定 10点 バイオテクノロジー、系統推定、共生説

4.大問別分析

第1問「生命現象と物質」

●第1問では、「生命現象と物質」の分野から、幅広い知識や理解が問われた。基本的な知識が中心だが、単位換算を含む計算問題が出題されており、解答に時間を要した受験生も多かったと推測する。
●Aでは、タンパク質の構造や光合成の過程、窒素固定と窒素同化に関する正確な知識が問われた。
●問1では、タンパク質の構造や性質についての基本的な知識が問われた。変性、ペプチド結合、ジスルフィド結合、酵素など、タンパク質に関して総合的に理解していることが求められた。
●問2は、光合成の過程に関する問題であった。光化学系Iや光化学系IIで起こる反応について、物質名を含めた正確な理解が問われた。ATPを当てはめられれば取り組みやすかったであろう。
●問3では、窒素固定細菌による窒素固定や窒素同化の過程など、窒素固定と窒素同化に関する総合的な理解が問われた。
●Bは、ラクトースオペロンなど、原核生物の転写調節に関する問題であった。
●問4では、大腸菌のラクトースオペロンに関する知識が問われた。グルコースを含めて問うている点が目新しい。
●問5は、大腸菌がDNA複製に要する時間を、問題文から数値を読み取って計算する問題であった。単位換算を含めて計算する必要があり、計算問題の演習を積んでいるかで差がついたと推測する。

第2問「生殖と発生」

●第2問は、「生殖と発生」の分野から、動物と植物の両方を題材とした問題が出題された。また、「旧生物I」との共通問題がみられた。
●Aは、配偶子形成に関する知識問題と、被子植物の花粉管の誘引とホヤの精子の誘引に関する実験考察問題であった。
●問1は、配偶子形成に関する知識を問う問題であった。基本的な知識であるが、選択肢で被子植物と動物の精子の両方が扱われており、戸惑った受験生も多かったと推測する。
●問2は、トレニアの花粉管の誘引とホヤの精子の誘引に関して、誘引に必要な細胞と、受精前後での誘引活性の変化を実験結果から考察する問題であった。
●Bでは、動物の発生について、イモリとショウジョウバエを題材とした問題が出題された。
●問3は、イモリの発生過程に関して、眼の形成を含めて問われた。「旧生物I」第2問A問2との共通問題であった。
●問4は、ショウジョウバエの頭部と胸部の境界について、卵に蓄えられるRNAの量を変化させた際の位置の変化を考察させる問題で、新課程で大きく扱われるようになった母性因子が出題された。
●問5は、新課程生物では扱われていない、致死遺伝子を題材とした問題であった。問われているのは原腸胚の形態の分離比であることに注意が必要である。母性因子と遺伝のかかわりを理解したうえで実験結果を予想することが求められた。

第3問「生物の環境応答」

●第3問は、「生物の環境応答」の分野から、動物と植物の両方を題材とした問題が出題された。また、「旧生物I」との共通問題がみられた。
●Aは、骨格筋の構造と収縮に関する問題であった。骨格筋の構造に関する基本的な知識と、収縮に関する理解が問われた。
●問1では、骨格筋の構造に関して問われた。基本的な知識であるが、「筋原繊維」と「筋繊維」、「アクチン」と「ミオシン」など、意味を混同しやすい用語が含まれており、理解が曖昧なままの受験生には解きにくい問題であった。
●問2は、骨格筋の収縮におけるサルコメアの変化に関する問題であった。「過不足なく含むもの」を選ぶ形式のため、正確に理解していることが求められた。
●問3は、筋収縮に関して、骨格筋の収縮のしくみを含めた正確な知識を問う問題であった。
●Bは、植物ホルモンに関する問題であり、オーキシンとジベレリンが扱われた。「旧生物I」第5問Aとの共通問題であった。
●問4は、種子の発芽におけるジベレリンのはたらきに関して、基本的な知識が問われた。種子の発芽のしくみについて理解していることがポイントであった。
●問5は、オーキシンの移動の方向や移動速度を、実験結果から考察する問題であった。選択肢5は、計算そのものは平易であるが、問題文の「オーキシンは一定速度で根の中を移動し」という記述に着目したうえで図5の意味を考察する必要があり、差がついたと推測する。

第4問「生態と環境」

●第4問は、「生態と環境」の分野から、基本的な知識や理解を中心に出題された。
●Aは、個体の成長と個体群、生命表と生存曲線に関する問題であった。
●問1は、最終収量一定の法則に関する知識が問われた。それぞれの選択肢を吟味する必要はあるが、内容は平易である。
●問2は、生存曲線の型について問われた。基本的な知識だが、「過不足なく含むもの」を選ぶ形式のため、正確に理解していることが求められた。
●問3は、生命表の数値から生存曲線の型を問う問題であった。図1と、表1および表2を丁寧に照らし合わせながら考察する必要があった。
●Bは、コマルハナバチとセイヨウオオマルハナバチの生態的な違いが、エゾエンゴサクの繁殖に及ぼす影響を考察する問題で、問題文を読み取って実験結果を検証する力が問われた。
●問4は、二つの実験の結果から導かれる考察を問う問題であった。問題文、図4、図5の内容をすべて用いた考察が求められた。複数のデータを比較しながら選択肢を丁寧に吟味する必要があり、差がついたと推測する。
●問5は、昆虫の口吻と花の花筒の長さの関係に関して、知識を含めて考察する問題であった。「生物の進化と系統」の内容が扱われた。共進化を扱っているという点で目新しい。

第5問「生物の進化と系統」

●第5問は、「生物の進化と系統」に関する問題であった。正確な知識や理解が問われており、十分な演習を行っていない受験生にとっては難しい内容であった。
●Aは、地質時代と生物界の変遷に関する問題であった。生物の出現と絶滅、植物の特徴に関する正確な知識が問われた。
●問1は、地質時代に関する基本的な知識が問われた。内容は教科書レベルであるが、選択肢の数が多く、内容が多岐に渡っており、正確な知識が必要である。
●問2は、陸上植物の特徴に関する問題であった。コケ植物、シダ植物、裸子植物、被子植物についての正確な知識が求められた。
●Bは、複数の条件が個体数の変化に与える影響に関して考察する問題と、動物の系統樹に関する正確な知識を問う問題であった。問題文を正確に理解することが必要であり、自然選択について理解しているかどうかもポイントである。
●問3は、突然変異によって生じる個体が集団として定着するために必須の条件を選択する問題であった。
●問4では、生物間の相互作用が問われた。右巻きマイマイ、左巻きマイマイ、ナメクジの関係を問題文から読み取って整理し、ナメクジを駆除するという条件下でそれぞれの個体数がどう変化するかを予想する問題であった。
●問5では、動物の系統樹について問われた。冠輪動物と脱皮動物という、新課程で新たに扱われるようになった内容が問われた。

第6問「臓器移植」

●第6問は、ブタの臓器をヒトに移植するという異種間臓器移植をテーマとした分野融合問題であった。免疫と遺伝情報の発現に関する知識が問われたことに加え、iPS細胞など、生物学に関する最近の話題も盛り込まれており、目新しい問題であった。また、第7問と同様、生物基礎の内容が扱われていた。
●問1では、免疫に関して、生物基礎の範囲を含む基本的な内容が問われた。選択肢3については、リンパ球の一種であるB細胞は抗原の提示を行うことから、正しいと判断した受験生もいたと推測する。
●問2は、真核生物の遺伝情報の発現に関する知識問題であった。第1問で出題された遺伝子がここでも扱われた。空欄の後の「この順に」という語を見落とすと誤りの選択肢を選択する可能性があるため、空欄の箇所以外の問題文を注意深く読む必要があった。
●問3は、拒絶反応を起こさない細胞でできたブタを作出する方法に関連して、iPS細胞が扱われた。選択肢にES細胞があり、判断に迷った受験生も多かったと推測する。

第7問「DNAの塩基配列を用いた生物の系統推定」

●葉緑体のDNAの制限酵素による切断パターンを題材とした分野融合問題であり、従来個別試験で出題されていたような素材の問題であった。また、第6問と同様、生物基礎の内容が扱われていた。
●問1は、切断断片の並び方として、「実験1の結果からは導かれないもの」を考察する問題であった。選択肢を吟味したうえで、その組合せを選ぶ必要があり、難しい。
●問2は、実験結果から系統関係を考察する問題であり、思考力を要する。第5問で出題された進化・系統がここでも扱われた。
●問3は、生物基礎の範囲である共生説について基本的な知識が問われており、平易である。

5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

年度20142013201220112010
平均点

6.センター試験攻略のポイント

・2015年度は各分野の知識が幅広く問われており、2016年度もこの傾向が続くことが予想される。生物の全範囲からまんべんなく出題されるため、対策としては教科書を中心とした正しい知識をしっかりと身につけることが有効である。やや細かい知識に加え、図から判断できる内容が知識として問われることもあるため、本文中の用語だけでなく図やグラフまで丁寧に理解しておきたい。
・2015年度は、進化と系統、および遺伝子に関する問題が、実験や他の分野と関連させながら多く出題された。また、従来個別試験で扱われていたような実験考察問題、分野融合問題も出題されているため、実験考察問題での演習や、分野間のつながりを意識した学習を行っておきたい。
・「旧生物I」と同様に、複数の実験から考察させる問題が出題されている。今後も同様の問題が出題される可能性があるため、対策しておくことが必要である。特に、図や表、グラフから必要な情報を正確に読み取る練習を積んでおきたい。身につけた知識をもとにした考察や、目新しいグラフやデータからの考察などは、「旧生物I」の過去の問題や模擬試験を活用した練習が効果的である。
・生物の問題では問題文だけでなく、実験条件や結果の把握、選択肢の正誤の判断を素早く行うことも重要となる。試験本番に時間配分をきちんと行い、どの大問においても自分の力を最大限発揮できるように、日ごろから解答時間を決めて問題に取り組むなど、自分なりの時間調整ができるようにしておきたい。

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