問題講評【倫理、政治・経済】
1.総評
- 【2015年度センター試験の特徴】
-
基礎知識に加え、資料の読解力が求められた。政経分野で独自設問。昨年より難化
『倫理、政治・経済』独自問題が2問出題されたが、特別な対応が必要な問題ではない。倫理分野は読解量の増加、政治・経済分野は基本的な内容理解の設問がみられることなどから、全体的な難易は昨年より難化した。
2.全体概況
【大問数・解答数】 | 大問数6、解答数39は昨年と変更なし。「倫理」および「政治・経済」との共通問題が多い中で、政経分野で「倫理、政治・経済」独自の設問が2問あった。 |
---|---|
【出題形式】 | 語句選択の問題が2問増加して5問に、2行の文章選択問題が5問減少して14問になったほか、6択の問題が4問増加して5問になった。 |
【出題分野】 | 「倫理」および「政治・経済」の各分野から網羅的に出題された。「倫理」では源流思想の設問は今年も他分野の大問にちりばめられた。「政治・経済」では国際分野の出題は昨年並であった。 |
【問題量】 | 昨年並。 |
【難易】 | 昨年より難化。 |
3.大問構成
第1問 | |||
---|---|---|---|
出題分野・大問名 | 配点 | 難易 | 備考 (使用素材・テーマなど) |
正義と理想 | 14点 | やや難 | 青年期・現代の諸課題・西洋思想 |
第2問 | |||
出題分野・大問名 | 配点 | 難易 | 備考 (使用素材・テーマなど) |
困難を乗り越える学び | 18点 | 標準 | 日本思想・源流思想 |
第3問 | |||
出題分野・大問名 | 配点 | 難易 | 備考 (使用素材・テーマなど) |
理性に対する評価の変遷 | 18点 | 標準 | 西洋思想・源流思想 |
第4問 | |||
出題分野・大問名 | 配点 | 難易 | 備考 (使用素材・テーマなど) |
公共の利益を実現するための政治参加 | 14点 | 標準 | 経済・政治 |
第5問 | |||
出題分野・大問名 | 配点 | 難易 | 備考 (使用素材・テーマなど) |
日本国憲法と人権 | 18点 | 標準 | 政治 |
第6問 | |||
出題分野・大問名 | 配点 | 難易 | 備考 (使用素材・テーマなど) |
スポーツ・イベントと経済 | 18点 | 標準 | 国際経済・国際政治 |
4.大問別分析
第1問「正義と理想」 (青年期・現代の諸課題・西洋思想)
●小学校卒業時のタイムカプセルを10年後に開ける友人の会話文から、青年期分野、現代の諸課題分野、西洋思想分野の各思想が扱われた。
●問1は、現代社会における環境・平和・文化についての基本的な知識が問われた。地球サミットに関する基本的な知識があれば、積極的に判断できる。
●問2は、レヴィンの「マージナル・マン」についての基本的な理解が問われており、平易であった。
●問3は、大問テーマに沿った「正義」の捉え方についての文章空欄補充の組合せ問題。古代ギリシアの四元徳、近代ヨーロッパのミル、現代のロールズと幅広い時代の思想家について問われた。ロールズが功利主義を批判し社会契約説を現代に復活させたことをおさえているかどうかがポイントであった。
●問4は、「幸せ」および「不安や悩み」についての統計を読解して述べた意見が選択肢となった問題。受験生にとって目新しい形式であった。Aは集団の統計であるにもかかわらず小学校5年生の子どもの動きを想定すること自体が誤りであったため、Aの判断に迷った受験生もいたであろう。
●問5は、カミュの資料読み取り問題。資料文を正確に読み取っていけば難しくない。
●問1は、現代社会における環境・平和・文化についての基本的な知識が問われた。地球サミットに関する基本的な知識があれば、積極的に判断できる。
●問2は、レヴィンの「マージナル・マン」についての基本的な理解が問われており、平易であった。
●問3は、大問テーマに沿った「正義」の捉え方についての文章空欄補充の組合せ問題。古代ギリシアの四元徳、近代ヨーロッパのミル、現代のロールズと幅広い時代の思想家について問われた。ロールズが功利主義を批判し社会契約説を現代に復活させたことをおさえているかどうかがポイントであった。
●問4は、「幸せ」および「不安や悩み」についての統計を読解して述べた意見が選択肢となった問題。受験生にとって目新しい形式であった。Aは集団の統計であるにもかかわらず小学校5年生の子どもの動きを想定すること自体が誤りであったため、Aの判断に迷った受験生もいたであろう。
●問5は、カミュの資料読み取り問題。資料文を正確に読み取っていけば難しくない。
第2問「困難を乗り越える学び」 (日本思想・源流思想)
●日本思想分野から時代・分野を特定せず幅広く出題された。一部、源流思想分野からの出題もみられた。
●問1は、古代人の信仰と国学について問われた。本居宣長の「真心」と迷った受験生がいたかもしれない。
●問2は、最澄について問う問題。奈良時代の仏教および平安時代の仏教について正確に理解できていれば判断は難しくない。
●問3は、ブッダの四諦についての正確な理解が求められた。
●問4は、江戸時代の思想とその思想家の組合せ問題。各文に「上下定分の理」「自然世」「天道と人道」などの基本的な用語が含まれているため、林羅山、安藤昌益、二宮尊徳の判断は平易であった。
●問5は、『論語』にあることばを問う問題。「智慧出でて大偽あり。」は老子であるが、他が判断しやすく消去法で解答できる。
●問6は、自己や社会について、西田幾多郎、柳宗悦、柳田国男、丸山真男の思想を問う問題。それぞれの人物について正確な理解が求められた。
●問1は、古代人の信仰と国学について問われた。本居宣長の「真心」と迷った受験生がいたかもしれない。
●問2は、最澄について問う問題。奈良時代の仏教および平安時代の仏教について正確に理解できていれば判断は難しくない。
●問3は、ブッダの四諦についての正確な理解が求められた。
●問4は、江戸時代の思想とその思想家の組合せ問題。各文に「上下定分の理」「自然世」「天道と人道」などの基本的な用語が含まれているため、林羅山、安藤昌益、二宮尊徳の判断は平易であった。
●問5は、『論語』にあることばを問う問題。「智慧出でて大偽あり。」は老子であるが、他が判断しやすく消去法で解答できる。
●問6は、自己や社会について、西田幾多郎、柳宗悦、柳田国男、丸山真男の思想を問う問題。それぞれの人物について正確な理解が求められた。
第3問「理性に対する評価の変遷」(西洋思想・源流思想)
●西洋思想のベーコン、コント、カントなどについて出題された。一部、源流思想分野からの出題もみられた。
●問1は、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教の聖典とその内容についての問題。「その掟を全うすることによって罪を贖うものは救われる」「それぞれに実践すべき規律」の判断に迷った受験生もいただろう。各宗教について正確な理解が求められた。
●問2は、ベーコンの著作と思想についての問題。誤答選択肢がニュートン、モンテーニュの内容であり、平易であった。
●問3は、空想的社会主義についての問題。オーウェン、フーリエ、バーナード・ショウに関して、「ニューハーモニー村」「ファランジュ」「フェビアン協会」などから判断できる。
●問4は、コントの思想についての問題。「創造的知性」「実存が本質に先立ち」「絶対精神」などからデューイ、サルトル、ヘーゲルであることが判断でき、近代西洋思想の人物の基本的な知識・理解が求められた。
●問5は、カントの批判哲学についての問題。「感性」と「悟性」の判断に迷った受験生がいたであろう。
●問6は、プラトン『パイドロス』の資料読み取り問題。資料を丁寧に読んでいけば難しくない。
●問1は、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム教の聖典とその内容についての問題。「その掟を全うすることによって罪を贖うものは救われる」「それぞれに実践すべき規律」の判断に迷った受験生もいただろう。各宗教について正確な理解が求められた。
●問2は、ベーコンの著作と思想についての問題。誤答選択肢がニュートン、モンテーニュの内容であり、平易であった。
●問3は、空想的社会主義についての問題。オーウェン、フーリエ、バーナード・ショウに関して、「ニューハーモニー村」「ファランジュ」「フェビアン協会」などから判断できる。
●問4は、コントの思想についての問題。「創造的知性」「実存が本質に先立ち」「絶対精神」などからデューイ、サルトル、ヘーゲルであることが判断でき、近代西洋思想の人物の基本的な知識・理解が求められた。
●問5は、カントの批判哲学についての問題。「感性」と「悟性」の判断に迷った受験生がいたであろう。
●問6は、プラトン『パイドロス』の資料読み取り問題。資料を丁寧に読んでいけば難しくない。
第4問「公共の利益を実現するための政治参加」(経済・政治)
●経済分野・政治分野からの出題。公共の利益を実現するための政治参加をテーマに、日本の政治や経済について幅広い知識が問われた。
●問1は、寡占市場の特徴について問われた。カルテルについて理解できていれば、平易であった。
●問3は、日本、アメリカ、イギリス、ドイツの選挙の投票率の推移のグラフを読み取る問題であった。日本以外の国については受験生にとってなじみのない資料であり、日本の小選挙区比例代表並立制の導入時期やアメリカ大統領選の時期など、選挙に関する知識が必要であった。丁寧に解いていけば、グラフの数字から正答は判断できる。なお、本問は「政治・経済」との共通問題ではなく、『倫理、政治・経済』独自の問題であった。
●問4は、日本の国家予算について問われた。特別会計の予算作成について理解していれば積極的に判断できた。
●問5は、社会保障給付の対GDP比と社会保障の財源構成の資料から、日本、イギリス、ドイツの判断が問われた。ドイツは高福祉国で保険料中心の財源構成であるため判断しやすい。BとCのうち財源構成が三等分に最も近いのが日本と判断できるかどうかがポイントであった。
●問6は、国内外の制度における合意形成や決定の過程について問われた。日本の予算案について衆議院の優越を正しく理解していれば正答を判断できる。なお、本問は「政治・経済」との共通問題ではなく、『倫理、政治・経済』独自の問題であった。
●問1は、寡占市場の特徴について問われた。カルテルについて理解できていれば、平易であった。
●問3は、日本、アメリカ、イギリス、ドイツの選挙の投票率の推移のグラフを読み取る問題であった。日本以外の国については受験生にとってなじみのない資料であり、日本の小選挙区比例代表並立制の導入時期やアメリカ大統領選の時期など、選挙に関する知識が必要であった。丁寧に解いていけば、グラフの数字から正答は判断できる。なお、本問は「政治・経済」との共通問題ではなく、『倫理、政治・経済』独自の問題であった。
●問4は、日本の国家予算について問われた。特別会計の予算作成について理解していれば積極的に判断できた。
●問5は、社会保障給付の対GDP比と社会保障の財源構成の資料から、日本、イギリス、ドイツの判断が問われた。ドイツは高福祉国で保険料中心の財源構成であるため判断しやすい。BとCのうち財源構成が三等分に最も近いのが日本と判断できるかどうかがポイントであった。
●問6は、国内外の制度における合意形成や決定の過程について問われた。日本の予算案について衆議院の優越を正しく理解していれば正答を判断できる。なお、本問は「政治・経済」との共通問題ではなく、『倫理、政治・経済』独自の問題であった。
第5問「日本国憲法と人権」(政治)
●経済分野からの出題。日本国憲法の解釈と人権についての会話文から、民法、人権の拡大など、法を中心に政治に関する知識が幅広く問われた。
●問1は、会話文のなかの空欄補充の形式で、民法の規定について問われた。非嫡出子の相続に関する2013年の違憲判決を理解していれば判断できた。
●問2は、権利の拡大および救済のための制度をめぐって日本で取り組まれたことについて問われた。児童福祉法、公害健康被害補償法、アイヌ文化振興法、2013年の障害者の権利に関する条約への批准と、時事的な事項の理解も求められた。
●問4は、社会権について問われた。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」から、判断は容易であった。
●問5は、統治機構に対する日本での監督や抑制のための制度について問われた。検察審査会は国会議員ではなく国民から選出されていることを理解していれば判断できた。
●問6は、ポジティブアクション(アファーマティブアクション)として適当な事例が問われた。設問文では「ポジティブアクション(アファーマティブアクション)」のことばが使用されていないため、題意の把握が難しかった受験生もいたと思われるが、内容は確実に理解しておきたい。
●問7は、日本の国家公務員や地方公務員について問われた。副知事や副市長の解職など、直接請求権について理解していれば判断できた。
●問1は、会話文のなかの空欄補充の形式で、民法の規定について問われた。非嫡出子の相続に関する2013年の違憲判決を理解していれば判断できた。
●問2は、権利の拡大および救済のための制度をめぐって日本で取り組まれたことについて問われた。児童福祉法、公害健康被害補償法、アイヌ文化振興法、2013年の障害者の権利に関する条約への批准と、時事的な事項の理解も求められた。
●問4は、社会権について問われた。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」から、判断は容易であった。
●問5は、統治機構に対する日本での監督や抑制のための制度について問われた。検察審査会は国会議員ではなく国民から選出されていることを理解していれば判断できた。
●問6は、ポジティブアクション(アファーマティブアクション)として適当な事例が問われた。設問文では「ポジティブアクション(アファーマティブアクション)」のことばが使用されていないため、題意の把握が難しかった受験生もいたと思われるが、内容は確実に理解しておきたい。
●問7は、日本の国家公務員や地方公務員について問われた。副知事や副市長の解職など、直接請求権について理解していれば判断できた。
第6問「スポーツ・イベントと経済」(国際経済・国際政治)
●国際経済・国際政治分野からの出題。オリンピックの開催と経済の関係をテーマに、経常収支、BRICSなどが問われた。
●問1は、2008年の出来事が問われた。サブプライムローンの時期の判断に迷った受験生がいただろう。日本がTPPの交渉に参加したことなど時事的な知識も求められた。
●問2は、経常収支について問われた。国際収支の内容が問われたため、とまどった受験生がいたかもしれない。
●問4は、日本、韓国、中国、ブラジルのGDPの実質成長率のグラフからブラジルを判断する問題。Aは高い成長率が続く中国、Cは1998年の大きな落ち込みからアジア通貨危機の影響を受けた韓国、Dはバブル経済崩壊後低成長が続く日本で、消去法で判断できる。
●問6は、企業活動のグローバル化について問われた。多国籍企業の売上高と日本のGDPの規模を把握していれば判断できる。
●問7は、人件費が上昇したときの需給曲線の動きが問われた。設問文から人件費が上昇したときという場合を判断し、コストの上昇によって供給曲線が需要曲線に沿って左上に移動することの理解が求められた。
●問1は、2008年の出来事が問われた。サブプライムローンの時期の判断に迷った受験生がいただろう。日本がTPPの交渉に参加したことなど時事的な知識も求められた。
●問2は、経常収支について問われた。国際収支の内容が問われたため、とまどった受験生がいたかもしれない。
●問4は、日本、韓国、中国、ブラジルのGDPの実質成長率のグラフからブラジルを判断する問題。Aは高い成長率が続く中国、Cは1998年の大きな落ち込みからアジア通貨危機の影響を受けた韓国、Dはバブル経済崩壊後低成長が続く日本で、消去法で判断できる。
●問6は、企業活動のグローバル化について問われた。多国籍企業の売上高と日本のGDPの規模を把握していれば判断できる。
●問7は、人件費が上昇したときの需給曲線の動きが問われた。設問文から人件費が上昇したときという場合を判断し、コストの上昇によって供給曲線が需要曲線に沿って左上に移動することの理解が求められた。
5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)
年度 | 2014 | 2013 | 2012 | 2011 | 2010 |
---|---|---|---|---|---|
平均点 | 67.29 | 60.68 | 67.14 | ― | ― |
6.センター試験攻略のポイント
●『倫理、政治・経済』としての特別な対策は必要ないが、「倫理」「政治・経済」の両科目について、ともに十分な学習を積み重ねておかなければ高得点は望めない。両科目をバランスよく学習していくことが望ましい。●倫理分野では現代の思想家が扱われることもある。教科書本文にある基本事項を整理することが重要であることは当然であるが、欄外の記述や資料集・用語集などを用いて積極的に周辺知識についてもおさえておきたい。一方、前提となる知識が無くても与えられた設問文や資料文を読み解いて考察することで判断できる問題も出題されている。このような問題はこれまでも「倫理」で幾度も出題されてきたものである。類題演習を通じてしっかりと読解力と考察力を身につけておきたい。
●政治・経済分野においては、正確な知識が必要となる問題も散見される。これまで統計資料や図版を用いた問題においては、その多くが資料読解力を試されるもので落ち着いて判断すれば正答にたどり着けるものが多かった。今年は、基本的な知識と資料から読み取れる内容を関連付けて判断する問題もみられた。まずは教科書にある原理原則について確実な理解を心がけ、過去問演習等を通じて応用力を培いたい。また、時事的な話題を知っていれば有利になる問題が散見された。時事問題の重要性は高いと考えたい。
●新課程に向けては、倫理分野において引き続き基本事項を整理し、思想家とその思想内容をおさえ、資料文などの読解力を培うことが重要である。政治・経済分野においても、原理原則の確実な理解と、事例の判断や資料から読み取れる内容を知識と結び付けて考察する力は引き続き求められる。また、環境などの現代社会の諸課題における対立する概念などが扱われることも考えられ、時事問題にも関心をもちたい。
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