問題講評【日本史B】

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1.総評

【2015年度センター試験の特徴】 

外交史が増加。正確な史資料の読解力と網羅的な学習が勝負を分けた。難易はやや難化

外交史が増加して分野の網羅性が上がったほか、時代は中世史と戦後史が減少。また、人物史の素材として林芙美子が取り上げられた。積極的に正答を選べる問題が多かったが、多彩な史資料の読解力を求める問題も見られたため、難易は昨年に比べやや難化した。

2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数6、解答数36個で昨年から変更なし。第5問・第6問は日本史Aとの共通問題。
【出題形式】 6択の年代整序問題が減少(5→3)し、2文の正誤判別問題は6問で昨年から変更なし。例年同様、グラフ、写真、地図など多彩な資料が扱われた。
【出題分野】 外交史の比重が昨年より高まり、各分野が網羅的に出題された。中世史と戦後史は、昨年からやや減少した。
【問題量】 昨年並。
【難易】 昨年よりやや難化。

3.大問構成

第1問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
海を移動した人の歴史 12点 標準 大学生と高校生の兄妹による会話文
(日本人の海外移住者数グラフ、朱印状の史料)
第2問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
原始・古代の農業と社会の変化 18点 標準 A 原始・古代の社会(写真)
B 律令制下での農業(鹿子木荘の史料)
第3問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
中世から近世初期までの政治・社会 18点 標準 A 鎌倉から戦国時代の政治・社会(「御成敗式目」)
B 織豊政権期の政治・外交・社会
第4問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
近世の政治・経済・社会 17点 標準 A 近世の政治・経済・社会
B 近世の政治や社会(「市中取締類集」)
第5問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
明治期の立法機関 12点 やや易 明治期の政治・経済・文化
(『第二十二回帝国議会貴族院議事速記録』)
第6問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
林芙美子と近現代の文化・外交・政治 23点 標準 A 大正から昭和初期の文化
B 昭和初期の外交(地図)
C 戦後の政治

4.大問別分析

第1問「海を移動した人の歴史」

●学習指導要領で重視されている「主題学習による歴史の考察・解釈」の要素を反映した出題で、例年同様にテーマ史が出題された。大学生と高校生の兄妹による会話文をもとに、近代史から古代史まで歴史をさかのぼる形で外交史を中心に幅広く出題された。
●問1では、日本人の海外移住者数を示したグラフが扱われた。満州事変や英米との開戦など、1900年代の出来事に関する知識を含めて問われたが、読み取りを丁寧に行えば易しい問題であった。
●問2は、近代の日米関係についての文章選択問題で、日露戦争後の国際関係や第一次世界大戦期・大戦後の日本の中国進出などについて、桂・タフト協定や石井・ランシング協定の内容にまでふみこんだ正確な理解が問われた。
●問3は、朱印状の史料を用いて、朱印船貿易に関する知識が問われた。史料中の「呂宋(ルソン)」を読み取ったうえで、この地が現在のフィリピンであるという知識が求められた。
●問5は、鎌倉・室町時代の禅宗とその文化について誤文選択で問われた。雪舟が水墨画を大成したという知識は基本事項であり、自信をもって誤りと判断できた受験生も多かっただろう。
●問6は、古代の人の移動についての年代整序問題であった。五経博士が百済から来たことを想起できれば、IIIとIの前後関係は判断できる。ただし、渤海と交流があった時期が、8世紀の奈良時代であることをおさえていない受験生は判断に戸惑ったかもしれない。

第2問「原始・古代の農業と社会の変化」

●Aでは原始・古代の社会について、Bでは律令制下での農業について出題された。
●問2は、弥生時代に普及した農具とその用途について、竪杵と石包丁の図版を用いて問われた。基本事項であり、自信を持って正答を選べただろう。
●問3では、ヤマト政権下の氏姓制度について問われた。受験生が苦手としやすい事項ではあるものの、基本的な内容で正誤判断ができる構成であったため、日頃の学習量で差がついただろう。
●問4は、奈良時代の灌漑施設についての2文の正誤判別問題であった。三世一身法について内容の正確な知識と理解が問われた。また、行基の社会事業への貢献などもおさえておきたい基本的事項であり、得点しておきたい問題であった。
●問5は、郡司に関する年代整序問題であった。健児や大宝令といったキーワードを手がかりに、時代の流れを正確におさえられていれば解答できただろう。
●問6は、鹿子木荘の史料読解問題であった。史料の文字量も多く、選択肢でも正確な正誤の判断が求められたが、どの教科書にも掲載されているなじみ深い史料であり、普段から史料と歴史事項をからめて学習をしていた生徒は容易に正答を選べたと思われる。

第3問「中世から近世初期までの政治・社会」

●Aでは鎌倉から戦国時代にかけての政治・社会について、Bでは織豊政権期の政治・外交・社会について出題された。
●問1は、3つの空欄に入る語句を組合せで問う問題であった。御成敗式目制定の意図が問われていたが、教科書にも掲載されている史料であり、鎌倉幕府の特徴(道理を重視、武家社会)を想起すれば、正答を選ぶことは容易であった。
●問3は、中世の京都に関する2文の正誤判別問題であった。座は通常、室町時代で学習する内容であるため、鎌倉時代での正誤判断に戸惑った受験生もいただろう。
●問5は、朝鮮出兵に関する文章選択問題で、正答選択肢の壬辰・丁酉倭乱の知識を積極的に判断できた受験生は少なかったと思われる。また、誤答選択肢の文禄・慶長の役でそれぞれ朝鮮半島のどの地域まで日本が進出していたかという知識もやや細かく、最後まで判断に迷った受験生もいただろう。
●問6は、戦国大名や織豊政権の法と政策について問われた。豊臣秀吉の太閤検地における京枡の統一は基礎的事項であり、正答を選べた受験生は多かっただろう。

第4問「近世の政治・経済・社会」

●Aでは近世の飢饉を取り上げて政治・経済・社会について、Bでは近世の政治や社会などについて出題された。
●問1は、リード文のテーマに関連して、近世の飢饉への対応・対策について三大改革下の施策を中心に問われた。寛政の改革下における七分積金の具体的内容など、正確な知識が求められた。
●問3は、近世の東北諸藩に関する2文の正誤判別問題であった。藩政改革の学習のなかで、伊達政宗や、ややなじみの薄い佐竹義和に関する具体的な知識がないと、正誤の判断は難しかっただろう。
●問5は、近世後期の対外問題への幕府の対応について年代整序で問われた。アヘン戦争が最後であることは判断できても、全蝦夷地を直轄地とした時期の特定が難しく、苦戦した受験生が多かっただろう。
●問6は、史料を用いた読解問題であった。史料の読み取りだけでも解答は可能だが、旧里帰農令や人返しの法について内容の理解ができていれば、自信をもって正答を選べただろう。

第5問「明治期の立法機関」

●明治期の立法機関をテーマとした大問であり、政治・経済・文化が出題された。
●問2は、大日本帝国憲法制定の過程やお雇い外国人について問われた。シュタイン(スタイン)もモッセも頻出の人物であるため判断は易しい。また、黒田清輝の絵を見たことがあっても、印象派の影響を受けているかどうかは、一歩踏み込んだ学習が必要でありやや難しい。ただし、荻原守衛が彫刻家であるという知識は基本事項であるため、ここを手がかりに正答にたどりつきたい。
●問3は、明治期の経済に関する文章選択問題であった。松方財政、官有物払い下げ事件などの重要事項に関連する内容のため積極的に正答を選ぶことができただろう。
●問4は鉄道国有法案の審議に関する初見史料を用いた問題であったが、慌てずに史料を読み取れば、判断は容易であった。

第6問「林芙美子と近現代の文化・外交・政治」

●昨年に引き続き人物をテーマとした出題であり、林芙美子を取り上げて近現代の文化・外交・政治について問われた。
●問2では、大正から昭和初期の文学や出版について問われた。雑誌『太陽』の創刊時期などの基本事項が中心であり、近現代の文化史のなかでは解きやすい問題であったが、時代ごとに文化史の各事項を整理し、網羅的な学習ができていたかどうかで差がついただろう。
●問3は安井曽太郎に関する2文の正誤判別問題であった。洋画に関わる人物であることは判断できても、二科会への参加などやや細かな正誤判断が求められたため、自信をもって解答できた受験生は少なかっただろう。
●問4は、語句の組合せ問題で、疎開と復員の用語の区別や内容の理解が求められた。迷わずに正答を選べた受験生が多かっただろう。
●問6では、日本軍が占領した都市について、南京とシンガポールの位置が問われた。シンガポールの位置を問う地図問題は、2013年度に続いて出題された。近代の日本の戦争について、地理的な認識を含めて学習できていたかどうかが問われた。
●問8では、占領期の社会状況について文章選択問題で問われた。日ソ中立条約と日ソ共同宣言の区別など、正確な知識が求められたが、選択肢一つ一つの丁寧な吟味ができれば、消去法でも解答できただろう。

5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

年度20142013201220112010
平均点 66.32 62.13 67.92 64.11 61.51

6.センター試験攻略のポイント

●センター試験では例年、各時代・各分野からまんべんなく出題されているので、苦手な時代・分野をつくらないことが大前提である。テーマ史も毎年出題されているので、「教育史」「法制度史」「信仰・宗教史」といった頻出のテーマにも注意したい。また、学習がおろそかになりやすい戦後史は、近年比較的新しい時代も含めて出題が続いている。文化史を含めて1990年代までの動向をおさえておきたい。
●内容に関しては、文章の正誤判断を求める問題が中心である。歴史用語の正確な内容理解が問われることも少なくない。また、特定の時代の動向・展開や、あるテーマにもとづく時代横断型の出題、時系列の理解を問う出題、歴史的思考力を問う出題が傾向としてあげられる。これらの問題は単語の暗記のみでは対応できないため、関連する項目の因果関係を把握したうえで歴史の流れを整理し、同時代の出来事についても政治史を軸に各分野の内容をとらえておきたい。また、共通点・テーマを設定して歴史全体を縦断的に見渡すことも心がけたい。
●センター試験では、新課程の学習指導要領でも重視されている「歴史と資料」に対応した史料の読み取り問題や図版の読み取り問題が出題されることが多いので、今後もしっかりと対策を行っておきたい。まずは教科書の内容理解とあわせて、関連する史・資料をしっかりと確認し、初見の史・資料が出題された場合でも落ち着いて取り組めるようにしておきたい。また近現代史では、文献史料だけでなくグラフや表などの統計資料を確認しておくことも重要である。

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