問題講評【日本史A】

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1.総評

【2015年度センター試験の特徴】 

経済史の出題が増加。史資料を丁寧に読み解けたかがカギ。昨年よりやや難化

東京市・大阪市の人口動態の統計資料など身近な話題と歴史を結びつけた出題や、山本作兵衛の『筑豊炭坑絵巻』など目新しいものも含めてさまざまな史資料が使用され、受験生の読解力を問う出題が目立った。全体としての難易は、昨年よりやや難化した。

2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数6、解答数34は昨年から変更なし。第3問・第5問は日本史Bとの共通問題。
【出題形式】 出題形式は文章選択問題が増加し、6択の年代整序問題が減少した。山本作兵衛の『筑豊炭坑絵巻』、炭鉱での排水作業の様子のイラスト、「君死にたまふことなかれ」、「フランス外務大臣宛の駐日公使ロッシュ報告」、東京市・大阪市の人口動態の統計資料、鉄鋼(粗鋼)・下着類の生産量グラフ、1950年代後半と1970年代前半の日本における輸出入の構成の円グラフなどの資料が用いられた。
【出題分野】 幕末期を含め、近現代史中心の出題。前近代からの出題がなくなり、戦後史からの出題が減少。社会経済史と政治史が増加し、外交史と文化史が減少。
【問題量】 昨年並。
【難易】 昨年よりやや難化。

3.大問構成

第1問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
日本の産業革命 8点 やや難 「日本の産業革命」というテーマで調査報告を行う高校生の会話文(山本作兵衛の『筑豊炭坑絵巻』、炭鉱での排水作業の様子のイラスト、『婦選』第2号、「高橋フサ日記」、「君死にたまふことなかれ」)
第2問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
幕末維新期の政治・社会 18点 標準 A 19世紀後半の政治・社会
B 幕末の政治(「フランス外務大臣宛の駐日公使ロッシュ報告」)
第3問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
明治期の立法機関 12点 標準 明治期の政治・経済・文化
(『第二十二回帝国議会貴族院議事速記録』)
第4問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
近代の人口調査 15点 やや難 A 明治期の政治・外交
B 大正期から昭和期の社会
(東京市・大阪市の人口動態の統計資料)
第5問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
林芙美子と近現代の文化・外交・政治 23点 標準 A 大正から昭和初期の文化
B 昭和初期の外交(地図)
C 戦後の政治
第6問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
近現代の日本の商社 24点 標準 A 第一次世界大戦から昭和期の経済
B 太平洋戦争中の社会・経済
(鉄鋼・下着類の生産量グラフ)
C 戦後の政治・外交
(1950年代後半と1970年代前半の日本における輸出入の構成の円グラフ)

4.大問別分析

第1問「日本の産業革命」

●「日本の産業革命」というテーマで高校生が調査報告を行うという設定のリード文で、政治・社会・経済が出題された。資料として日本で初めて世界記憶遺産に登録された山本作兵衛の『筑豊炭坑絵巻』が使用された。受験生が苦手とする社会・経済からの出題や時期の特定が難しい史料の年代整序問題があったため、全体としてやや難しかった。
●問3では、『婦選』第2号、「高橋フサ日記」、「君死にたまふことなかれ」の史料の年代整序問題が出題された。史料を正しく読み、それを歴史事象と結びつけて、どの時代を示しているかを考える力が求められた。

第2問「幕末維新期の政治・社会」

●Aは19世紀後半の政治・社会、Bは「フランス外務大臣宛の駐日公使ロッシュ報告」の史料を使用して、幕末から明治初期の政治について出題された。踏み込んだ学習を必要とする出題もあったが、基本的な問題も多かったため、総合的にみれば標準的な難易であった。
●問2は、日米修好通商条約に関する文章選択問題であった。居留地での駐日領事の裁判権や横浜開港後の下田閉鎖など、やや細かい事項まで問われたため、差がつく問題と考えられる。
●問3では、幕末の貿易について2文の正誤判別問題が出題された。Xは基本事項であるため、取り組みやすかったであろう。Yは、この時期に万延改鋳が行われた背景を正しく理解できていれば、金貨の流入が誤りと判断できた。
●問5は、明治新政府に関する文章選択問題であった。廃藩置県などから「明治新政府が大名の存在を否定」を正しいと考えた受験生もいたであろうが、この問題は、史料中の下線部の後の文章から、政府が大名と連合して生まれたことを読み取り、誤りと判断する必要があった。史料を丁寧に読む力が求められたといえる。
●問6は、薩摩藩についての年代整序問題であった。それぞれの時期が接近しているため、迷った受験生もいたであろう。幕末動乱期の出来事の因果関係を整理できていたかがポイントであった。

第3問「明治期の立法機関」

●日本史Bとの共通問題。日本史Aとしては、標準的な出題であった。詳細は日本史B第5問参照。

第4問「近代の人口調査」

●Aは明治期から大正期の政治・外交、Bは大正期から昭和期の社会について出題された。判断に迷う事項や細かい知識が問われたため、全体としてやや難しかった。
●問2は、第1次桂太郎内閣に関する2文の正誤判別問題であった。Xでは第1次桂太郎内閣と第3次桂太郎内閣の違いが問われたため、苦戦した受験生も多かったであろう。桂園時代から桂が3回組閣し、3回目の組閣で護憲運動が起こったことを想起できるかがポイントであった。
●問3は、原敬内閣の事績についての文章選択問題であった。下線部の「第1回国勢調査」は原敬内閣の事績として扱っている教科書が少ないため、リード文中の「1920年」から原敬内閣を想起する必要があった。さらに大正期の各内閣に関する理解が求められたため、差がつく問題と考えられる。
●問5は、東京市・大阪市の人口動態の統計を使用して、1920年から1930年の人口について問われた。表を正確に読み取り、第一次世界大戦が起こった時期などの知識とあわせて考える必要があった。正答の選択肢で「朝鮮半島で多数の農民が土地を失ったこと」は教科書での扱いが少ないため、迷った受験生も多かったであろう。消去法で正答を導く必要があった。

第5問「林芙美子と近現代の文化・外交・政治」

●日本史Bとの共通問題。日本史Aとしては、標準的な出題であった。詳細は日本史B第6問参照。

第6問「近現代の日本の商社」

●Aは第一次世界大戦から昭和期の経済、Bは太平洋戦争中の社会・経済、Cは戦後の政治・外交について出題された。やや細かい事項に踏み込んだ出題もあったが、基本的な問題も多かったため、総合的にみれば標準的な難易であった。
●問2は、大戦景気に関する文章選択問題であった。基本事項であるため、取り組みやすかったであろう。
●問5は、鉄鋼(粗鋼)・下着類の生産量グラフを読み取る出題であった。甲が鉄鋼(粗鋼)、乙が下着類の生産量であることが正しく判断できなければ、a〜dすべてが判断できない問題であった。しかし、戦時下の国民生活や政府の軍備拡張政策が想起できれば、甲・乙がそれぞれ何を示しているかは容易に判断できたであろう。
●問8では、グラフを使用して1950年代後半と1970年代前半の貿易構造について出題された。Xは「食料品」「鉱物性燃料(原油等)」が項目としてあげられていること、Yは「機械機器」「鉱物性燃料(原油等)」の割合に着目した上で、1960年代の重化学工業の発展を想起する必要があり、苦戦した受験生も多かったであろう。統計資料を丁寧に読み解いた上で、歴史知識と結びつけて考える力が求められた。

5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

年度20142013201220112010
平均点 47.70 41.64 48.74 52.01 48.42

6.センター試験攻略のポイント

●例年、近現代中心の出題で各分野からまんべんなく出題されているので、苦手な分野をつくらないことが大前提である。テーマ史も毎年出題されているので、日本史Aの学習指導要領で重視されている「衣食住」「世界の中の日本」といったテーマにも注意したい。また、学習がおろそかになりやすい戦後史は、近年比較的新しい時代も含めて出題が続いている。政治・外交・社会経済を中心に1990年代までの動向をおさえておきたい。
●内容に関しては、文章の正誤判断を求める問題が中心である。歴史用語の正確な内容理解が問われることも少なくない。また、特定の時代の動向・展開や、あるテーマにもとづく時代横断型の出題、時系列の理解を問う出題、歴史的思考力を問う出題が傾向としてあげられる。これらの問題は単語の暗記のみでは対応できないため、関連する項目の因果関係を把握した上で歴史の流れを整理し、同時代の出来事についても政治史を軸に各分野の内容をとらえておきたい。また、共通点・テーマを設定して歴史全体を縦断的に見渡すことも心がけたい。
●センター試験では、学習指導要領で重視されている「歴史と資料」に対応した史料の読み取り問題や図版の読み取り問題が出題されることが多いので、今後もしっかりと対策を行っておきたい。まずは教科書の内容理解とあわせて、関連する史・資料をしっかりと確認し、初見の史・資料が出題された場合でも落ち着いて取り組めるようにしておきたい。

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