問題講評【世界史B】

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1.総評

【2015年度センター試験の特徴】 

東アジアや日本史に関する出題が増加。文章選択が大幅に増加し、昨年よりやや難化

大問構成、解答数に大きな変化はなかった。文章選択問題が6問から18問へと大幅に増加し、組合せ問題と語句選択問題が減少したため、情報量が増えやや難化した。また、昨年増加した西欧は減少し東アジアが増加したほか、日本史に関連する出題が散見された。

2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数4、解答数36は昨年から変更なし。
【出題形式】 4択の文章選択問題が大幅に増加(6→18)し、組合せ問題が減少(10→6)した。また、昨年4問出題された語句選択問題は出題されなかった。地図を使った問題は昨年同様2問出題された。年表を使った問題は減少(3→2)した。年代整序問題は昨年同様2問出題された。
【出題分野】 時代は、昨年増加した戦後史の割合が大幅に減少した。また、近世の割合が増加し、近代の割合が減少した。地域は、昨年より東アジアが増加し、西欧が減少した。東欧、東南アジア、アフリカなどの周辺地域の割合は増加した。政治史・文化史・社会経済史の各分野の出題割合はほぼ昨年同様であった。
【問題量】 昨年並。
【難易】 やや難化。

3.大問構成

第1問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
世界史上の帝国の支配とその影響 25点 標準 A セウェルスによるローマ帝国の立て直し
B ハプスブルク家の支配と20世紀のウィーン
C イギリス人とオーストラリア
第2問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
世界史上の港町 25点 標準 A 唐代中頃から13世紀にかけての泉州
B 13世紀から16世紀にかけてのリスボン 
C オスマン帝国時代のイズミル(スミルナ)
第3問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
世界史上の軍隊 25点 標準 A 中世末期から近世初期の傭兵
B 東アジアにおける火器使用の発展
C 日本におけるドイツ人捕虜
第4問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
世界史上の遊戯(ゲーム・競技)やその伝播と受容 25点 やや易 A チェスの起源と伝播
B じゃんけんの起源と伝播
C 囲碁の起源と伝播

4.大問別分析

第1問「世界史上の帝国の支配とその影響」

●Aではローマ皇帝セウェルスによる帝国の立て直しについて、Bではハプスブルク家の支配と20世紀のウィーンについて、Cではイギリス人の入植がオーストラリアに与えた影響について出題された。
●問1では、2世紀の出来事について、幅広い地域から問われた。大秦王安敦が五賢帝最後の皇帝であるマルクス=アウレリウス=アントニヌスであることを想起できれば、判断しやすかったであろう。
●問3では、ブリテン島の歴史について問われた。ヘンリ2世がプランタジネット朝を開いたことの正誤判断はやや難しかったであろう。
●問4では、ハプスブルク家の君主の事績について問われた。正答のヨーゼフ2世以外はハプスブルク家の君主ではなかったため、判断しやすかったと思われる。
●問6では、冷戦時代の出来事について問われた。受験生が苦手としがちな戦後史に関する出題であったが、冷戦終結が宣言されたのがマルタ会談であることは判断しやすい。
●問7では、オーストラリア連邦が成立した時期が年表形式で問われた。オセアニアは学習が手薄になりがちな地域であり、インド帝国成立との前後の判断は難しかったと思われる。イギリスの帝国主義政策の転換に関連づけて理解していれば解答できた。
●問8では、二文の正誤判断形式で、公用語について問われた。ムガル帝国の公用語は2012年度のセンター試験でも出題されていた。

第2問「世界史上の港町」

●Aでは唐代中頃から13世紀にかけての泉州について、Bでは13世紀から16世紀にかけてのリスボンについて、Cではオスマン帝国時代のアナトリアの都市イズミル(スミルナ)について、港町の繁栄をテーマに出題された。テーマに関連して、地図を用いて都市名とその位置の組合せを問う問題が2問出題されるなど、地理的な認識を問う出題がみられた。
●問1では、世界史上の交易について問われた。アラム人とフェニキア人の判断は基本的な内容であり判断しやすかったであろう。
●問2では、大問のテーマに沿って、18世紀後半にヨーロッパ船の貿易港に指定された中国の都市名とその位置の組合せが、地図を用いて問われた。正答である広州の位置は、日ごろから地図を用いて学習していれば判断できただろう。
●問3では、二文の正誤判断形式で、アフリカ東海岸の港町について問われた。問題文をよく読み、アフリカとインドを混同しなければ、ポンディシェリが誤りであることの判断は難しくなかったと思われる。
●問5では、ポルトガルがアジア進出の拠点とした都市の名と、その位置の組合せが地図を用いて問われた。ゴアがポルトガルの拠点であったことは基本的な内容であり、判断しやすかったであろう。
●問6では、イタリアの歴史について、古代から現代まで幅広い時代から問われた。ローマ進軍を行ったのがムッソリーニであると想起できたかが判断のポイントであった。
●問7では、繊維の原料や製品について問われた。ジョン=ケイの発明内容や、ナイロンが開発された年代など、やや詳細な知識が問われた。
●問9では、ギリシアがオスマン帝国から独立した時期が年表形式で問われた。ギリシア独立戦争をオスマン帝国の衰退と関連づけて理解できているかが問われた。

第3問「世界史上の軍隊」

●Aでは中世末期から近世初期のヨーロッパ諸国における傭兵について、Bでは16世紀以降の東アジアにおける火器使用の発展について、Cでは第一次世界大戦時の日本におけるドイツ人捕虜について出題された。問6で遊牧国家の並び替え、問8で東欧について問われるなど、受験生が苦手としがちな内容についての出題がみられた。
●問2では、フランスの軍隊の歴史について、中世から戦後まで幅広い時代から問われた。クレシ−の戦いやディエンビエンフーの戦いの勝敗の判別は難しいと感じた受験生もいたであろう。
●問3では、税制について幅広い時代と地域から問われた。ザミンダーリー制とライヤットワーリー制の区別や、「権利の章典(権利章典)」の内容など、制度の内容についての正確な理解が問われた。
●問5では、都市について時代・地域とも横断的に問われた。アズハル学院が設けられた都市として、カイロとアレクサンドリアの判別がポイントとなった。また、アンコール=トムに関する出題はやや目新しいものであった。
●問6では、遊牧国家について年代整序形式で問われた。bの突厥がエフタルを滅ぼした時期と、cのアッティラが建国した時期の判断は難しかったと思われる。遊牧民族の変遷についての正確な理解が問われた。
●問7では、二文の正誤判断形式で、日本とアメリカが第一次世界大戦に参戦した理由が問われた。2つの大戦について整理しておく必要があった。
●問8では、オーストリア=ハンガリー帝国の領域にかつて含まれた国の歴史について問われた。チェコスロヴァキアの解体とミュンヘン会談の関係や、ハンガリーが社会主義国となった年代については、判断に迷った受験生もいたであろう。
●問9では、万国平和会議について、空欄補充の組合せで問われた。会議の開催された場所については、ハーグ密使事件を想起できるかが判断のポイントであった。

第4問「世界史上の遊戯(ゲーム・競技)やその伝播と受容」

●Aではチェスについて、Bではじゃんけんについて、Cでは囲碁について、それぞれの起源や伝播をテーマに出題された。問4、問7をはじめ、文化史からの出題が目立った。また、問2、問6、問8など、日本史に関わる出題も多く見られた。
●問2では、世界史上の女王について幅広い時代、地域から問われた。卑弥呼が親魏倭王の称号を得た王朝の判別は、選択肢を丁寧に読めば判断できた。
●問3では、近代オリンピックの開催地となった国や都市の歴史について問われた。オーストラリアの先住民がアボリジニであることは基本知識であり解答しやすかったであろう。
●問6では、20世紀以降のアメリカ合衆国が日本と中国と関わった出来事について、年代整序形式で問われた。昨年も中国の対外関係史について出題されており、20世紀の日中関係について整理していた受験生には有利であっただろう。
●問7では、二文の正誤判断形式で、宇宙を論じた思想や人物について問われた。宋学の内容については抽象度が高く判断は難しかったであろう。
●問8では、空欄補充の組合せで貞享暦について問われた。問題文の読み方によっては誤答として排除できないものがあったため、大学入試センターより正答を2つする旨の発表があった。授時暦を作ったのが郭守敬であることは、基本事項としておさえておきたい。
●問9では、長安で起こった歴史上の出来事について問われた。選択肢から西安事件を想起できるかが判断のポイントとなった。

5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

年度20142013201220112010
平均点 68.38 62.43 60.93 61.46 59.62

6.センター試験攻略のポイント

●世界史Bでは、教科書にある内容をそれぞれ丁寧におさえておくことが欠かせない。一つの地域や時代の枠内で重要事項をきちんと整理し、それぞれの時代の特徴を把握したうえで、同じ時期のヨコのつながりや、時代の枠組みをこえたタテのつながりを意識した学習が重要である。同時期にほかの地域で起こった出来事が結びつくように、世紀ごとに世界を見渡すことに慣れておきたい。それぞれの出来事を各世紀の前半・後半に分類できるように備えておくとよいだろう。近代以降は、さらに短いスパンでおさえておくことが求められる。学習を進める度に、図説などの「○○世紀の世界」として示されたページと、地域ごとに配列された年表を活用しながら、既習事項との関連をおさえ、より理解を深めるようにしたい。
●ヒトやモノの移動、社会史的なテーマ、生活に身近なモノから見た歴史や接触と交流など、複数の地域が絡む事項については、相互の関係や時代背景、その後の影響などを丁寧に整理しておきたい。また、東南アジア・朝鮮・中央アジア・ラテンアメリカ・アフリカなど、教科書で分散して扱われる地域については、中国や西欧、アメリカなどの動きに並行させて民族・王朝・国家などの時期を把握しておくよう注意したい。なお、これらの地域についても、戦後史を含めて、必ず歴史の流れを整理しておくことが必要である。
●ひとつひとつの事項が該当する時期・地域を確認するとともに、その背景・原因となった事象や、その後の社会に与えた影響など、有機的な関連性を意識して、日頃から学習を進めたい。また、個別の事項の詳細に踏み込みすぎず、歴史の流れを大局的にとらえることも心がけたい。
●主要な王朝・国家・都市は、関連事項とその位置を地図で確認しながら学習を進めるようにしたい。同時期のヨコのつながり、王朝・国家の支配領域についても、同時期に存立していた王朝や隣接する王朝などにも注意しながら、図説などの地図を活用して視覚的におさえておくことが欠かせない。なお、地図を見るときには、教科書本文で触れられる主要な河川や半島などの位置もあわせて確認し、位置をおさえる目安として補っておくことが望ましいだろう。
●新学習指導要領では「世界の動向と日本とのかかわり」について触れるように強調されており、今年のセンター試験でも日本史との関連を問う問題が散見された。新課程初年度となる次年度以降も同様の傾向が続くと予想される。また、新指導要領で「資料の活用」が重視されていることを受け、2003年以降出題のない図表・グラフ、史料を用いた問題が出題されるかが注目される。

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