問題講評【世界史A】

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1.総評

【2015年度センター試験の特徴】 

戦後史を含めた近現代史が大幅に増加し、政治史の比重が高まる。難易は昨年並

先史から戦後まで幅広い時代が扱われ、地域・分野も網羅された。全体的に、近現代史を中心とする世界の歴史を考察させるという世界史Aの基本的性格が考慮された出題であったといえる。難易は昨年並。

2.全体概況

【大問数・解答数】 大問数3、解答数33は昨年から変更なし。
【出題形式】 昨年より文章選択問題が9問から13問に増加し、語句選択問題が7問から4問に減少した。地図問題は昨年より1問減少したものの、今年も2問出題された。また、ここ数年出題のなかったグラフを用いた資料問題が1問出題された。
【出題分野】 時代については、前近代からの出題が減少し、近現代からの出題が大幅に増加した。特に現代史と戦後史からの出題が目立った。地域については東欧・東アジアからの出題が増加した。分野については政治史からの出題が増加した。
【問題量】 昨年並。
【難易】 昨年並。

3.大問構成

第1問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
世界史上のマイノリティ(少数派または被支配集団) 34点 標準 A 中東のクルド人
B 東欧のユダヤ人
C 中米グアテマラの先住民
第2問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
世界史上の人間と動物との関わり 33点 標準 A ヨーロッパにおける動物のイメージ
B 富や権力の象徴とされた毛皮
C インドにおける騎馬
第3問
出題分野・大問名 配点 難易 備考
(使用素材・テーマなど)
世界史上の社会運動や民衆運動 33点 やや難 A 現代の中東における民衆運動
B 19世紀半ば以降のイギリスの労働運動
C 清代の太平天国

4.大問別分析

第1問「世界史上のマイノリティ(少数派または被支配集団)」

●Aではトルコ東南部からイラン西部にまたがる地域に住むクルド人、Bでは東欧のユダヤ人、Cでは中米グアテマラの先住民を例にあげ、政治や国際関係、文化など幅広い分野から出題された。
●問1では、選択肢の誰がクルド人かの判断はできなくても、リード文中の「第3回十字軍と戦い」から、サラーフ=アッディーン(サラディン)が想起できる。基本的事項であり、難しくない。
●問2では、イスラーム諸王朝についての基本的知識が問われた。諸王朝の領域の地理的な理解も正答を得るためのポイントとなった。
●問3では、イスラーム教の多数派と少数派とされる宗派の組合せが問われた。歴史的な基礎知識だけでなく、現代のイスラーム世界を理解するうえでも必要な知識が問われた。
●問4では、民族対立や迫害についての歴史と、地域をまたいだ幅広い知識が問われた。戦後の地域や民族紛争についての学習が手薄であった受験生にとっては判断に迷う出題であった。
●問7では、第二次世界大戦の時期に起こった出来事について出題された。テネシー川流域開発公社(TVA)の設立が、世界恐慌に対する政策であることは基本事項である。
●問8では、ドイツ経済が世界史の事象とどのように関係しているかを、グラフから読み取る力が問われた。1929年が世界恐慌発生の年であることがわかれば、aの正誤判断は難しくない。bはベルリンオリンピック大会とナチ党政権の関係が理解できているかがポイントとなった。ナチ党政権におけるオリンピックの政治的利用については、教科書の記述も少なく、正誤の判断に迷った受験生も多かったであろう。
●問10では、20世紀後半の科学や文化についての知識が求められた。教科書を最後まで丁寧に学習しているかどうかで差がつく問題である。

第2問「世界史上の人間と動物との関わり」

●Aではヨーロッパにおける動物のイメージ、Bでは富や権力を象徴する毛皮、Cではインドと騎馬との関係を題材に、人間と動物との関わりについて政治史・社会経済史・文化史を絡めて出題された。
●問2では、大問のテーマに沿って、先史から戦後までの基本的事項が社会経済史や文化史の観点から問われた。「甲骨」の意味が理解できていれば正答は得やすい問題であった。幅広い時代を扱っており、教科書を最初から最後まで丁寧に学習しておく必要がある。
●問4では、イギリス国教会成立の時期判断が問われた。基本的知識ではあるが、国王とその事績についての正確な理解が求められた。
●問6では、ヒンドゥー教の特徴について大問テーマに沿った内容が出題された。現代の国際交流にも必要な知識であり、宗教の特徴は正確におさえておきたい。
●問8は、中国の領土の変遷に関する地図を用いた出題であった。清の時代、朝鮮半島には王朝が存在しており、清の直轄地ではなく朝貢国であったこと、あわせて当時の清の領域の地図上での理解が求められた。
●問11では、イギリスの植民地について問われた。オーストラリアへの移民急増の経済的背景については教科書の記述も少なく、受験生にとっては判断に迷ったであろう。ただ、他の選択肢は基本的事項であり、消去法で正答を得ることは可能であったと思われる。

第3問「世界史上の社会運動や民衆運動」

Aでは現代の中東の民衆運動、Bでは19世紀半ば以降のイギリスの労働運動、Cでは清代の太平天国をとりあげ、近現代の各地域で起こった社会運動や民衆運動に関わる事項を中心に出題された。
●問2では、戦間期の民衆運動についての時期判断が問われた。五・四運動が第一次世界大戦後のパリ講和会議の内容に起因していることが理解できているかどうかが判断のポイントとなった。
●問3は、第一次世界大戦後の西アジアにおけるイギリスの委任統治領とその位置が問われた。大戦におけるオスマン帝国の敗北が西アジアの情勢にどのような影響を与えたか、その理解を地理的認識も含めて求められた。受験生にとっては難しかったであろう。
●問4では、パレスチナの歴史について、年代整序の形式で問われた。パレスチナ紛争とその解決のための試行錯誤の歴史の理解が求められた。戦後史についての丁寧な学習ができていたかどうかで差がつくと思われる。
●問5では、1848年のヨーロッパにおける革命や民衆運動について問われた。1848年の革命がウィーン体制の崩壊につながったことが理解できていれば、正答は積極的に選べたであろう。
●問6では、労働者を対象にイギリスとドイツの各政府が進めた政策について問われた。テーマに沿った歴史事項の判断が求められた。
●問10は、清末から中華民国成立の時期にかけての中国について、基本的知識が問われた。この時期の変革の流れと出来事についての丁寧な学習ができていれば、判断は難しくない。
●問11では、日本と朝鮮半島の歴史についての理解が問われた。近代以降の朝鮮半島で義兵闘争が起こった時期の判断を求められた。年代を覚えていなくても年表にある「皇国臣民ノ誓詞」の意味に気づけば、正答が想起できるだろう。しかし、日本の韓国併合の動きを十分に理解できていない受験生にとっては、難しい問題であった。

5.過去5ヵ年の平均点(大学入試センター公表値)

年度20142013201220112010
平均点 47.78 46.67 43.62 48.42 52.31

6.センター試験攻略のポイント

●世界史Aでは、教科書にある内容を、戦後史まで丁寧におさえておくことが欠かせない。その際、一つの地域や時代の枠内で重要事項をきちんと整理し、それぞれの時代の特徴を把握したうえで、同じ時期のヨコのつながりや、時代の枠組みをこえたタテのつながりを意識した学習が重要である。同時期にほかの地域で起こった出来事が結びつくように、世紀ごとに世界を見渡すことにも慣れておきたい。
●ヒトやモノの移動、社会史的なテーマ、生活に身近なモノから見た歴史や接触と交流など、複数の地域が絡む事項については、相互の関係や時代背景、その後の影響などを丁寧に整理しておきたい。また、東南アジア・朝鮮半島・中央アジア・ラテンアメリカ・アフリカなど、教科書で分散して扱われる地域については、中国や西欧、アメリカなどの動きに並行させて民族・王朝・国家などの時期を把握しておくとよいだろう。
●主要な王朝・国家・都市は、関連事項とその位置を地図で確認しながら学習を進めるようにしたい。同時期のヨコのつながり、王朝・国家の支配領域についても、教科書や図説などの地図を活用して視覚的におさえておくことが望ましい。
●新学習指導要領では「世界の動向と日本とのかかわり」について触れるように強調されており、今年のセンター試験でも日本史との関連を問う問題がみられた。また「資料の活用」が重視されていることを受け、今年はグラフから歴史事象を読み取る問題が出題された。新課程初年度となる次年度以降も同様の傾向が続くと予想される。

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